小説

『鶴田一家』宮原周平(『鶴の恩返し』)

「君は…君は本当は誰なんだい?俺にレイナなんて娘はいないよ」
「えっ?どうしたの?お父さん…」
「子供も本当はいないんだろ?今ならやり直せるからこんな詐欺はやめなさい」
 レイナ役の女の声色が変わる。
「やっぱり、気づいてるよね。普通本当の娘がいたら少し経てばわかるもんね。なんかおかしいなーとは思ってたんだけど、お金もらえるから続けちゃった」
「君の本当の親も心配しているよ。娘をこんな風に育てたつもりはないはずだ」
「は?だから?何?説教?父親じゃねーんだろ?何様?」
疑問系がこんなに恐いと思ったことはない。言葉のニュアンスも大分きつい。
「いや、そういうわけじゃ…ただ、親御さんの身になって考えてみるとやっぱ、…」
「親なんていねぇーよ!これから警察にでも被害届け出す?クソじじい!」
クソじじい…糞爺…漢字にするとさらに汚く見える…などと関係ないことを考え気持ちを落ち着かせようとする。
「いや、警察に出すつもりはない。ただ、もうこれでお終いにしてほしい。君ぐらい若かったらまだやり直せる…って言おうと思ったけど、クソじじいとはなんだ、バカ娘!父親に向かってなんだその口の聞き方は!お前のためを思って言ってんだろうが!お前を助けたいんだよ!」
 私の気持ちの水面は揺れに揺れていた。
「てか、父親じゃねーだろ!キモいんだよ!あほ、ハゲ、死ね、腐れチ*ポ!」
「汚い言葉遣いはやめなさい!」
「うっせーなー。でも、正体がバレたからもう二度と電話しねーから。さよなら。じゃーねー」
「まーちょっと待て!一回会ってちゃんと話そう」
「会ってどうするんだよ?金払った分だけやらせろとか言うんだろ、変態野郎!…」
 などと、罵詈雑言の集中砲火を浴びる中、電話の向こうから駅のアナウンスが聞こえてきた。
         『終点、田鶴駅—田鶴駅…』
「今、田鶴駅にいるのか?ちょっと待ってろ。そこからは急行で一駅だ。今行くから」
「来なくていいよ!」
 

1 2 3 4 5 6