小説

『狸寝入りのいばら姫』星見柳太(『眠れる森の美女』)

 ヤバイ。マジヤバイ。どうしよう。茨城姫子、人生最大のピンチ。いや、それは言い過ぎかもだけど、この状況はマジでヤバイ。
 そもそもの発端は、ものすごい眠気が私を襲ったことだった。まあそれについては自業自得というか、昨日マンガの一気読みして徹夜しちゃったっていうはっきりした理由があるんだけど、とにかくありえないくらい眠くて、イトちゃんが「じゃあもう保健室で寝てくりゃいいじゃん」って言って、貧血ってことにして保健室行こうってなったんだけど、なぜかイトちゃんが八王子くんも一緒に連れてきて、今はなぜか八王子くんの目の前で私が寝てるっつー意味不明な状況になってしまった。恨むよイトちゃん。なにが「寝込み、襲うなよ?」だよ、恥ずかしいこと言ってんじゃないよ。今度絶対ケーキ奢らせてやる。
 八王子くんは、見た目マジメな感じで、ちょっと無愛想なところもあるんだけど、掃除とか片付けの時とかけっこう手伝ってくれるし、ありがとうって言うとちょっと照れながらはにかむ顔が意外と可愛かったりして、気になるというか、まあぶっちゃけ好きなんです、はい。
 イトちゃんはそれを知っていて、彼と私を二人っきりにさせたのだ。気を利かしたつもりなのか、ただからかってるだけなのか、まあ多分どっちもだろうけど、おかげで私は、好きな人の前で寝たふりをするというよくわからない事をしている。くそ、ベッドに入って一瞬マジ寝したのが運の尽きだった。ああどうしよう、なんかもう起きるタイミングわかんないし。いや普通に起きればいいじゃん。でも起きてどうするよ。多分会話続かねー。てか意外と寝たふり気づかないのな。私って結構演技派かも。女優の素質あるかな。でも八王子君が鈍いだけか。普段から鈍いもんね。毎朝挨拶したり、結構アピールしてるつもりなんだけど。イトちゃんからも「もっと積極的にいかないと、気づいてもらえないんじゃない」なんて言われるし。
 さっきからずっと一人で黙ったまんま、ちょっとかわいそうだけど、なに考えているのかな。

 

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