小説

『狸寝入りのいばら姫』星見柳太(『眠れる森の美女』)

ツギクルバナー

 お昼前の保健室。授業中のこの時間、校内は静寂に包まれている。本来なら教室で勉学に励む時間に、ある意味日常から隔絶されたこの空間にいるのは、風邪を引いて休んだ日のように、地に足付かない心地がした。ただ、僕の腰が落ち着かず、いささか挙動不審なのは、それだけが理由ではない。
 目の前に、意中の女子の、茨城姫子が寝ているのだ。
 そもそもの発端は、彼女が貧血気味で気分が悪いと言い出したのが始まりだった。僕ともう一人、車田さんという女子が保健委員なのだが、最初車田さんが保健室に連れて行くだろうと思ってそれを静観していると(女性だし、男子が下手に手を出さないほうが良いのではと思った)車田さんに「途中で倒れたりしたらどうすんの」と言われて、一緒に付き添った次第である。保健室に着くと養護教諭の先生がいなかったので、とりあえずベッドを拝借することにした。茨城さんはベッドに横たわると、そのまま深く眠ってしまった。しばらくその可愛らしい寝顔を眺めていたのだが、車田さんが「とりあえず落ち着いたみたいだし、八王子くんそのまま見といてよ。二人でいてもしょうがないし」と言って、教室へと戻っていった。確かに寝ている茨城さんを放ってはおけないが、車田さんも強引というか、少し無責任ではないか。「寝込み、襲うなよ?」と捨て台詞のようにのたまっていったが、そう思うなら彼女が残れば良いではないか。
 とはいえ、車田さんに不満を言うつもりはない。むしろ感謝すべきだろう。僕はちょっぴり緊張しながら、茨木さんを見守る幸福を満喫した。

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