小説

『サルとカニの向日葵』渡辺恭平(『猿蟹合戦』)

 冒険家気取りのコソ泥と娘を愛する母親との間で葛藤にしつつ、どちらも娘のためという答えを無理やり導きだし、千恵子は原因究明の手を緩めなかった。
 あった。
 ろくに整理もしていない少女の秘密の引き出しには、案の定ちりばめられたビーズ、しわくちゃの手紙、どこでもらってきたのかわからない安っぽい景品が賑やかにしまわれている。自分のクローゼットと一瞬かぶってしまったが、すぐに忘れることにした。その中にお目当てのものは奥の方に丁寧にしまわれている。
 息をつき、千恵子は手にとった目当てのものを開く。
 日記。ワンコインで手に入るそれを、真紀はストレス解消用に大事に使っている。決してお花畑で花冠を作っている少女を想像して開いてはいけない。そんな生易しいものではない。都会のビルとビルの合間で世の不幸を叫んでいる悲痛な少女を連想させ、千恵子は腹を決めた。母親でさえ、ワンクッション挟まなければみれないのだ。

あいつまじむかつく。なんでわたしの種とこうかんしなくちゃいけないの。むかつく。したくないし。したくないし。まじさい悪。せっかく大きい種だったのに。これでさかなかったら、あいつしんじゃえばいいのい。

 ほほぉう。これはまた生々しいものを見てしまった。内容は定かではないが、何やら真紀をかなり不機嫌にさせたらしい。これ以上最新のページがないことを確認して、千恵子は日記をもとの場所に返した。多少あさった形跡があろうと、真紀は気づかないだろう。
 千恵子は深呼吸をして、一度落ち着いた。娘の気持ち一知るのにここまでの労力が必要になってくるのだ。
真紀の椅子に腰かけ、頭の中を整理していく。種。望んでいない交換。咲く。これらのキーワードと最近の真紀の生活環境を照らし合わせると、おのずと事件の全貌が浮かび上がってくる。たぶん、理科の授業だろう。この間、千恵子が残りもののお米とおかずで握ったおむすびをほおばりながら、真紀達小学五年生はヒマワリを育てるんだ何とかと言っていた気がした。だいたいこれであっているはずだ。
 

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