小説

『かちかち山のこと』青色夢虫(『かちかち山』)

 まったくなんたる悪党であろうか。この悪逆なる二人が夫婦となることは最早、我々にとっては不幸でしかないが、一つの必然であった。類は友を呼ぶの諺の通り、この不心得者どもは添い遂げ、より大なる悪へと進化したのである。まさしく、この二人は昔話界のボニーとクライドであった。
 かようなる奸凶の二人にすれば、タヌキの化け術など、まったく児戯に等しかった。善良なるタヌキは、ただこの二人組の強盗の前に供された贄に等しかったのである。
 事の発端は、ウサギであった。この無知であるが、こずるい小動物は、その無知さからこの老父の前栽を荒し、大根を二本と人参を三本、白菜を少々拝借したのである。
 これを見つけたのは老女であった。見つけるなりマッハババアもかくやという速度でウサギを捕縛すると、またたく間のうちに、自在鉤に結びつけてしまった。下では、ぐつぐつと鍋が煮立っている。
 これに慌てたウサギは、自分の命が助かるならと嘘八百を並べたてた。
 曰く、「自分よりも美味なるものあり、それはタヌキなり」と。
 老女はこれを聞き、タヌキも食いたしと思い、ウサギを放ち、騙して連れて来ることを命じた。我が身可愛いウサギは、食われたくない一心で、タヌキを探しに行ったというのである。
 素晴らしき思考を持つ読者諸氏はすでにお気づきだろう。ここでウサギが逃げれば、それでよいではないか、と。しかし、小心ものたるウサギにはそれはあまりに過酷であった。哀しいかな、この白い獣は、なんとかタヌキを連れてこなければ、自分が食われるのだと思い込んでしまったのである。
 さて、ウサギは首尾よくタヌキを見つけた。ウサギはここでもこずるさを発揮し、嘘を並べ立てた。曰く、「一人の媼あり。体を壊し、よろづのことに不自由せり。行って助けたりと思へども如何」と。
 

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