小説

『人魚に恋した少年』小山遥(『人魚姫』)

 部屋の隅に、袋ごと置いてある。袋から小瓶を取り出すと、俺の想像以上のことが起こっていた。
 あのうろこは消えていた。代わりに、小瓶の中身全体が、虹色に光っていた。
「あぁ……」
 あのうろこは、やはり人魚の――彼女のものだったのだ。彼女が泡になると同時に、かつて彼女が落としたうろこも、消えた。
「…………」
 しかし、虹色の中に、何かうろこ以外のものが漂っている。目を凝らすと、それは小さな紙のようだった。しかも、何か書いてある。
「あ……り……」
 ――ありがとう――
 それは彼女の筆跡だった。猛練習した文字でこのちいさな手紙を書き、小瓶にしのばせて、彼女は俺にこれを渡してくれた。
「……っ……!」
 俺は虹色の小瓶を握り締めて、泣いた。

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