小説

『アリとキリギリス』山田洋州男(『アリとキリギリス』)

 キリギリスは歌を歌っています。
 アリはそんな歌にはおかまいなしに、せっせと食べ物を運びます。アリは食べ物の少なくなる冬を乗り切るために、夏のうちに食べ物を集めるのです。
 キリギリスが歌を歌うのは、メスのキリギリスに出会うためです。上手に歌えればメスが近寄って来てくれるのです。
 歌うのはオスのキリギリスだけです。歌えばメスに会えることだけではありません。悪いこともあります。例えば鳥とかの天敵に、自分の居場所を教えてしまうことにもなりかねません。しかし、オスのキリギリスはそんな危険を冒しても、メスのために歌うのです。

 そんなキリギリスのもとに、メスのキリギリスがやって来ました。そしてキリギリスは、メスのキリギリスや仲間のキリギリスとともに、夏の間歌ってすごしました。
 そのうち、だんだんと涼しくなり、メスのキリギリスは卵を産みました。キリギリスは卵とメスのために歌を歌い続けました。
 そして、とうとう寒い冬がきました。だんだん食べるものも減ってきて、このままでは死んでしまいます。メスのキリギリスも弱ってきました。
 そんなある日、キリギリスは自分が歌っているときに、アリたちが食べ物を運んでいたことを思い出しました。そこで、キリギリスはアリの家に行って何か食べ物を分けてもらおうと思いました。

「アリさん、何か食べ物を分けてくれませんか。もう食べる物がないのです」
 アリはあきれた様子で答えました。
「わたしたちは、暑い夏に日に、みんなで一生懸命食べ物を運んでたくわえていたんです。その間、キリギリスさんは働かないで歌ってばかりだったでしょう。そんなキリギリスさんにあげられる食べ物なんてないわ」
 アリは背を向けて家に入ってしまいました。
 キリギリスはがっかりしました。しかし気を取り直して次のアリの家に向かいました。

「アリさん、何か食べ物を分けてもらえないでしょうか」
 するとアリはやれやれという感じで答えました。
「わたしたちアリは、夏の暑い日も休んだり遊んだりしないで、せっせと食べ物を運んでいました。あなたたちキリギリスが歌って遊んでいる時にもです。そんなに歌が好きなら、冬の間も歌っていればいいじゃありませんか」
 アリは家に戻ってしまいました。
 キリギリスは食べ物をもらうことは簡単なことではないことを知りました。だからと言ってここであきらめては、後はもう死ぬだけです。キリギリスは気力を振り絞って別のアリの家に行きました。

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