小説

『小豆橋』原哲結(『妖怪 小豆洗い』)

で、次に派生したのが、子どもっちゃ子どもなんやけど、ちょっと大きい子ども。
サッカーのU―12のチーム。
元々、右間と左間それぞれに、一チームずつあった。
それが橋ができて、子ども達に交流が起こって来たのを契機に、ホームアンドアウェーの対戦を始めた。

勝ったり負けたりするうち、爽健な対抗心、ライバル意識が芽生える。
それが上の世代 ‥ U―15やU―18やUー23にまで伝わり、ついにトップチームにまで伝わる。
自然、サポーターや周りの大人も巻き込み、若い世代には、右間左間のヘンな諍い感覚は無くなった。

この住民の現状を受けて、役所は考えたみたい。
『住民受けする政策を行なって、アピールする機会だ』、と。
時の町長、議会、議員諸々がこぞって、《右間(うま)地域と左間(さま)地域の区分けをやめて、合併して中間 (なかま)地域とする》案をブチ上げる。
「中間になって、共に仲間なろう」ってわけやな。

まあ公明正大にええことなので、表立った反対意見は出ず(表立たないものは、幾らかあったらしいけど)、政策は実行される。

今では、「右間左間?地域対立?柳生家裂戸家?何それ?」ってな感じで、すっかり忘却の彼方になっている。

「買って来たで」
「何個?」
「もちろん一つ」
「じゃあ早速、半分こ、しよ」

“男”というより若い、“女”というより若い、そんなふたりが、小豆橋の上で、邂逅している。

男が持って来たのは、仲饅頭。
右間にある[仲饅頭屋右間店]で購入していた。
粒餡半分と漉し餡半分を一つにして、それを薯蕷粉と上新粉で作った皮で包み、蒸し上げたものが、仲饅頭。

仲饅頭は、[中饅頭屋]の[右間店]と、[左間店]で売られている。
右間店で粒餡を作り、左間店へ粒餡を持って行く。
左間店で漉し餡を作り、右間店へ漉し餡を持って行く。
そして、両店で餡子を合体させて、皮に包んで蒸し上げて、お客さんに売る。

粒餡漉し餡両方入っている珍しさと、話題性とお得感と、勿論その味の美味しさから、仲饅頭の人気は上々だった。

もうひとつ、仲饅頭には、人気の秘密があった。

ふたりのためのジンクス。

《小豆橋の上で、ひとつの仲饅頭を二つに割って、男女ふたりで食べると、そのふたりは、末永く仲良く付き合える》というジンクスがあった。

そのお蔭で、仲饅頭大流行り、小豆橋の上行き来盛ん。
仲饅頭カップルが、バッティングすることもある。
もっとも、お互い自分らの世界に入っているから、今のところ、大した問題にはなっていない。

このカップルは幸い、バッティングせずに済みそうだ。
滞りなく儀式を進め、お互いの顔を見つめながら、滞りなく儀式を終える。
終えて、ふたりで、微笑み合う。

一方で、弾け跳ぶ。
川のほとりで、男の子と女の子の声が、弾け跳ぶ。
キャハハキャハハと、弾け跳ぶ。

男の子と女の子は、小さい兄弟らしい。
ふたりの近くに、父親らしき男と母親らしき女が、付き添っている。
父親は、ピンクゴールドラインのトップを付けたペンダントをしている。
母親は、ピンクゴールドラインのリングをしている。
ふたりは並び立ち、川べりではしゃぐ子ども達を見つめる。
慈しみ微笑み、見つめる。

小豆橋は、右間左間の、若い男女や若い家族の、幸せな時間の象徴になっている。
もうしばらくすれば、これらの男女や家族が年を重ねれば、老若男女全世代をカバーすることになるだろう。

ショキ ‥ ショキ ‥ ショキ
ショキ ‥ ショキ ‥ ショキ

あかん。
なんや最近、体力が落ちて来たような気がする。

 ‥ いや、分かってんねん。
自分でも、分かってんねん。

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