小説

『小豆橋』原哲結(『妖怪 小豆洗い』)

ツギクルバナー

ショキショキ ショキショキ
ショキショキ ショキショキ

俺、小豆洗い、なんだけど。
小豆、洗ってるんだけど。
妖怪、なんだけど。

“小川べりで、小豆洗うしか能が無い妖怪”ってどうよ。
一日三百六十五日二十四時間、生まれてこの方何百年間、ずうーと小豆洗っているって、どうよ。

いつの間にやら、気がつけば、小豆を洗っていた。
いや、小豆を洗って、何をするわけでもないんだけどね。
ホンマに、小豆洗っているだけなんだけどね。

なんで、こんなことになっちゃったかなー。
まあ、そこに俺の意思は、無いんだけども。

俺がここで小豆を洗っているせいなのか、そうでないのかは知らねども、まあ人が寄り付かない。
この川べりで人を見掛けることは、まったくといって言いほど無い。

うん、無い。
無いな。

この地域は、北上するこの川を境にして、右側が《右間(うま)》、左側が《左間(さま)》と呼ばれている。
で、この右間に住む人々と、左間に住む人々の間で、交流が無い。
いや、無いは生やさしいな。
むっちゃ、仲が悪い。

この地域は、小学校と中学校が、右間と左間の合同校舎だ。
その中で、右間住人と左間住人は、別々のクラスになっている。
一学年二クラス、右間クラスと左間クラス。
六+三 VS 六+三。
運動会とか球技大会とか学習発表会とか、それはスゴイ。
もろ、地域対抗戦代理大会、になる。

でも最近、前にも増して激化してるんやなー。
対立が、諍いが。
原因が原因だけに、双方譲れんもんがあるみたい。
色恋沙汰なんか、理性や倫理や論理からは、かけ離れたもんやから。
ほんでも、人間の性としてしゃーないもんやから、俺としては『ええやん』と思うけどなー。

右間で一番大きな家の柳生家の娘と、左間一番大きな家の裂戸家の息子が、恋仲になってしもたらしい。
隠しに隠していた、その忍ぶ恋が、最近露わになったらしい。
そら、双方の親、親戚、近隣住民は、激しく反対するわな。

右間の柳生家の娘、柳生未央。
佐間の裂戸家の息子、裂戸越人。

右間と左間の間に通じる唯一の道、左右街道。
その途中にある、この川に架かる、細く小さい左右橋で、よう逢引きしている。
左右橋ってのは、この川に架かる唯一の橋でもある。

二人が、こっそり逢引きしている様子を、遠目によく見かける。
こっちが、ショキショキ小豆といでるのに、音が気にならんのやろうか。

盛り上がっとんなー。
盛り上がっとる。
いつも、盛り上がっとる。

男が女に、ピンクゴールドのラインが入ったリング、を渡しとる。
女が男に、ピンクゴールドのラインが入ったペンダントトップのペンダントを、渡しとる。
今日は、プレゼント交換会らしい。

それが、なんや知らんけど、バレてしもうた。
俺やないで。
誰か目撃したやつが、いるんやろ。
そいつが、黙っときゃええもんを、ご丁寧に誰かにご注進したんやろ。

そういうわけで、右間佐間じゅう、右往左往大騒ぎ。
元々仲が悪かったから、日に油を注いだようなもん。
どっちも面子があるし、見栄があるし、立場もあるし。
でもそんなん、ホンマに大事なもん(この場合は、二人の気持ちやな)に比べたら、どっちゃでもええことやと思うけど。

心配やなー。
周りから、妨害とか非難とか中傷とか受け続けているやろうから、心配や。

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