小説

『芋虫から生まれた少女』志田健治(『桃太郎』)

「猫は芋虫が大好きだったので、チワワに見せてやりたくなりました。爪を使って素早く芋虫を取ると、そのまま口に咥えて持って帰りました」
「げー、きもちわる……」
「さて、芋虫はあまりに大きいので、それが本当に芋虫なのか猫にはわからなくなりました。だからチワワと相談して、割ってみようということになりました。猫は芋虫をまな板に乗せて、勢いよく包丁を振り落としました」
「やだー、きもちわるい……」
「すると、切ったところからまばゆい光があふれてきました。猫とチワワは眩しい目をこすりながら、中を開いてみました。そうしたら、なんと、芋虫の中から人間の子どもが出てきたのです」
「あっ!」と琉音は言う。そしてランタンを手に取って自分の寝袋の中に入れる。「開けてみて、開けてみて!」と言って寝袋にすっぽり包まれる。
 侑はジッパーを開ける。するとランタンの明かりが寝袋の中からこぼれる。
「こうでしょ? こうでしょ?」と琉音は言う。「侑もやってみて!」
 琉音は侑にランタンを渡し、同じように促す。侑は素直に従う。寝袋の中にいると眩しくて目が眩む。琉音が外からジッパーを開けると「わああ」と感嘆に満ちたため息をつき、侑はそのこぼれた光を浴びた琉音の顔がとてもきれいだな、と思う。
「ねえ、それで誰が出てきたの?」琉音が聞く。
「琉音だよ。芋虫の中から出てきたのは琉音」侑は答える。
「琉音なの!?」
「そうだよ。だめ?」
「いいよ」琉音は笑う。「それで、どうなったの?」
「おしまい。出てきたのは琉音でした。で、ちゃんちゃん、だよ」
「なにさ、ちゃんちゃん、って。ちゃんと桃太郎みたいにお供を連れて鬼退治に行かなきゃだめじゃん」
「そこはちゃんとしてるんだね」
「そうだよ。じゃないと話にならないでしょ」
「うーん、もう寝ようよ」
「だめ。気になるもん。最後まで話して」
「わかったよ」侑は話す。「ええと……それで、芋虫生まれの琉音太郎は……」
「ちょっと待って、やっぱり琉音なの?」
「だめ?」
「うーん……」琉音は考えて。「いいよ」と笑う。
「琉音太郎は、それはそれは強くて逞しい女の子に成長しました。そろそろ鬼退治に行かなきゃいけないなぁ、と考えましたが、お供を探すのも面倒なので、猫とチワワをそのまま連れて行くことにしました。一人足りないけど、まあいいやと思いました
「電車とバスとフェリーを乗り継いで鬼が島まで行きました。途中の売店で吉備団子を買おうとしましたが、売っていないので琉音太郎はみたらし団子を買いました。ごま団子よりもみたらし団子の方が好きだったのです。
「さあ、鬼の棲家にやってきました。右から左から子分の鬼が襲いかかってきました。猫もチワワも鳴いたり、うるさく吠えるだけで役に立ちませんでした。琉音太郎は腕まくりをして、いっちょやってやるか、と思いました。
 すると鬼の一人が出てきてこう言いました。
『その旨そうなみたらし団子で俺を雇わないか』

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