小説

『てぶくろを編んで』とみた志野(『手袋を買いに』新美南吉)

やっさんいい人だし、布団あったかいし、よそ者で中卒の俺を雇ってくれた。
商品が売れなくても文句言われないし、店がごちゃごちゃの倉庫状態でもうるさいことも言われない。
不満はないはずなのに・・。

透はどこか満たされないもやもやした気持ちを抱えていた。
そのもやもやがなんなのか透はなんとなく分かっていた。
でもわかったってどうしようもない。

タバコをふう、と吐き出しさぁ後片付けするかと立ち上がった時、物音に気づいた。
トントンと音がする。
耳を澄ますと音はどうやら裏口のドアからするようだ。
トントン。
お客さんか?もう閉めちゃったというのに。
「はい、なんでしょうか」
めんどくさい調子を隠しもせず透は答えた。
「てぶくろを・・」
「へ?」
「あの・・てぶくろを下さい」
そうやってドアの隙間から何かが出てきた時思わず透はぎょっとした。
それは、人形の手だった。
ところどころペンキが剥がれた白くて小さな木製の手。
からくり人形のような・・。

からくり人形?

透はその手に見覚えがあるような気がした。
そんなまさか。

透はかけよって裏口のドアを開けた。
するとちいさな手の持ち主はさっと手を引っ込め、くるっと後ろを向いて逃げて行った。
カクカクと変わった動きをしながら唐草模様のはっぴを着た後ろ姿が見える。
「あ、ちょっと待って!」
意外に早い。

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