小説

『てぶくろを編んで』とみた志野(『手袋を買いに』新美南吉)

「あ、雪・・」
透は「冬物SALE」の札を手に持ったまま空を見上げて呟いた。
布団を抱えて後ろについてきていたやっさんが急に立ち止まった透にぶつかった。
「ちょ、なんだよ」
持っていた羽毛布団につっこんだ頭をあげて空を見る。
発泡スチロールのつぶのような水っけのない雪がぱらぱらと降り出している。
夕暮れ時の商店街を人々が肩をすぼめて歩いていた。
「どうりで寒いはずだぜ」
やっさんが、ぶるぶると大げさに顔を降ってそのまま布団をもって奥へ引っ込む。

さびれかけている商店街の「ぬの屋」。
雑多な店内は商品がところせましと並んでいる。
布団のような大きいものからどう考えたって売れ残っている色のあせた布バックやセーター、手袋。
いつもセールの札がかかっている数年前に流行ったキャラクターの布。
埃のかぶった毛糸。そういったものが無秩序に詰め込まれている。
透自身も何があるのか全部は把握していない。

布ものを扱っているというのにレジ横には石油ストーブが置いてある。
こういうゆるさに透はもう慣れてしまっていた。

寒い日にはストーブを目当てにじーさんばーさんがやってきておしゃべりして帰って行く。ストーブには干し芋がのっているときもあるし、みかんがのっているときもある。
こっちにきて初めて透は「焼きみかん」という食べ物があることを知った。

「もう表のシャッター閉めちゃっていいよ」
「あ、はい」
透は「山の上のぬの屋」(山なんてどこにもないのだが)と書かれた看板をしまい、シャッターを下ろした。
「じゃ、俺これからちょっとコレとアレだから」
にやにや笑って小指を立てたやっさんがそそくさとコートを着込む。
「あ、じゃ、自分あとやっときますんで」
俺の返事を聞くまえに裏口からやっさんが出て行った。
ふう、っとため息をついて破れて中からスポンジが飛び出ているレジの丸椅子に腰掛けた。
ポケットからタバコを取り出して火をつける。

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