小説

『菊見の頭巾』平井玉(『聞き耳頭巾』)

「この近所のこととかを教えてあげてんの。その帽子かぶったからって、面白い話がすぐ聞けるわけないっしょ」
お話では、小鳥の話を聞けば色々わかるみたいだったけど。
「そうだよね。病気の原因がすぐわかったりしないよね」
「病気なら病院行くでしょ。普通」
カラスは高学年男子のようにやさぐれていた。
「インサイダー取引とかならわかるときあるけど」
「何それ。意味わかんない」
「そうか。爺は兜町も攻めてたけどな。へそと栗を貯めるんだって言ってたぞ」
「へそくりでしょ。なんかつまんないなあ。もっと面白い話無いの?」
カラスはちょっと傷ついたみたいだった。けいざいのはなしがわかるカラスは少ないんだぞ、とかなんとか、ぶつぶつ言っている。そのとき、幼稚園の時よく遊んだ男の子がランドセルを背負ってとぼとぼ公園に入ってきた。隆弘君はお受験に失敗して、近所の学校に通っているから、澪とは時間割が違うのだ。隆弘君は、腕を怪我したみたいで、ギブスをしていた。
「隆弘君!」
澪に気付くと、しおれたホウレンソウみたいだったのが少ししゃんとなった。
「澪ちゃん。久しぶり」
「腕、どうしたの」
「・・・自転車で転んだ」
「わあ。お大事に」
動物と話すことは秘密にしなければならないので、もうおしゃべりすることはありません、というオーラを出すと、隆弘君はまたしおれた野菜みたいになって家に帰って行った。
「今のはうっそー、だよ」
「え」
「あの子はね、小学校に入ってからずっといじめられてる」
「え。骨を折るくらい?あそこの小学校荒れてるんだね」
「ちがうよ。親にいじめられてるんだよ。お・や」
隆弘君はマンションの三階に住んでるので、
「木にとまってるとちょうど見えるんだよ」
とカラスは言った。どうも、受験に失敗したことで両親がおかしくなったらしい。
「家に帰るのが嫌で、あんなにとぼとぼしてるんだね」
なんだか嫌な気分になって、澪もなんとなくとぼとぼと家に帰った。
「おう、澪、もうかりまっか」
じいちゃんはまだ縁側にいた。澪は帽子を脱いだ。
「もうかるのは難しいよ。なんか、あんまりいい話は聞こえないよ」
隆弘君の話をすると、じいちゃんの目がきらっと光った。
「なあ、御先祖様だって、そうそういい話ばかり聞いたわけじゃないと思うぞ」
「そうかな」
「そうさ。秘密の話はだいたい嫌な話さ。御先祖様だって、庄屋の弱みにつけこんだり、ゆすりたかりしたりで儲けたんじゃないかとわしはにらんどる」
「昔話はやっぱりみんな嘘なんだね」
小学校四年生に可能な限りのブルーな物思いに浸っていると、じいちゃんがまたベタに膝をうった。
「いや、本当にできることもある。桃太郎侍なら今でもなれるぞ」
「桃太郎侍はドラマだよ」
「同じようなもんさ。金でできないことはないとホリエモンも言っておる」
なんだかよくわからないが、じいちゃんがずいぶん元気になったみたいなので、澪も少し元気になった。

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