小説

『サルの夢』山本康仁(『猿蟹合戦』)

 あれから十二年。
 私は中学へ行き、高校へ行き、大学へ行った。みんなと同じように進学して、みんなと同じように卒業した。地元を離れて都会に出た。みんなと同じように就職して、会社へ行って、残業して、女子会に参加して、週末になったら友だちと買い物に出かける。なるべく自炊して、付き合ってる彼がいて、ときどき親に電話する。普通に生活して、普通に仕事して、みんなと同じくらいに幸せなだけだ。
 私は何もやってない。私は何も悪くない。
 ベッドから起きてカーテンを開けて、コーヒーを淹れて、メイクして、スーツを着た自分の、みんなと変わらない姿を鏡の前で確認して、いつもの様に電車に乗る。あの小さな学校の全校生徒が乗り合わせたような、ぎゅうぎゅう詰めの電車の中で、私はお調子者の男子ではない。ナナっぺのようなリーダーでもない。りくちゃんやすーちゃんでもない。ただ誰かが私の靴を踏んで、誰かが私の背中を押して、それに合わせて揺られているだけだ。
 私は何もやってない。私は何も悪くない。
 私はきっと、今夜もまたサルの夢を見る。

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