小説

『かっぱちゃん』うざとなおこ(『河童伝説』)

 夏休みが、スキップしながらやってきた。
 シャーシャー、クマゼミたちも、にぎにぎしくさわぎだしていた。
 ぼくは、机の上で、たいくつなしゅくだいをゆるゆる、だらだらしながら、いつのまにか、うとうと、うたたねをしていたみたい。
やわらかい、みどり色の風が、ふいっとふきぬけて、はっと目がさめた。
―トントン。
「だれ?」
 ぼくのへやのまどを、トントンたたいたのは、あたまに、おさらがのっかった、かおも、体も、ズボンもぜんぶ、みどり色のかっぱちゃんだった!
「やあ、あそぼ」
「ひゃあ~!」
 かっぱちゃんは、遠い昔からの友だちのように、にこにこして、ぼくをさそいにきた。
「だってね、きみのとーちゃん、じーちゃん、ひいじーちゃんとも、こどものときあそんだよ」
「かっぱちゃんって何才なの?」
「んーと、5ひゃくかっぱ才くらいかなぁ」
「えーっ!」
 みどりだけど、どう見ても、どんぐりめを、くるくるまわす、6才くらいの子どものかたちのかっぱちゃん。
ぜんぜん、5ひゃく才には見えないよ。
 マンモスやきょうりゅう。りくと水を行ったりきたりする、カモノハシみたいな生きものもいるんだ。世界は、なぞのあなぼこだらけ。あなをのぞくと、ふしぎをどんどん見せてくれる。

「およぎに行こう!」
「うん!行こう」
ざっぷーん!小さいがけっぷちから、かっぱちゃんはとびこみ、すいすいきれいな、平およぎがじょうず。かっぱちゃんの手と足は、みどりのはっぱになって、ぷわぷわうかんでいるみたい。
ぼくは、がけからびくびく。足がふるえて、とべないんだ。
「お空の雲をーつかんでー、ジャンプしたらー、とべるよー!」
ぼくは、空にいきおいよく手をのばして、雲をつかんだ。じゃっぶーん!
 やったー!ぼくは、かっぱちゃんに、びくびくをふっとばしてもらった。

つぎの朝は、小川でザリガニといっしょにおよいだ。じゃぶじゃぶ、とっぷん!
「いたたたたたっ!」
かっぱちゃんは、ざりがにに、おしりをはさまれた!ぼくは、青くなってひっしにはずした。みどりのおしりが、まっ赤っかになって、びっくりして、ふたりでわらいこけた。
かっぱちゃんのおしりは、かわでじゃぶじゃぶしてると、すぐなおっちゃった。すごいね。

「やっほー」
「ヤッホー」
 ぼくとかっぱちゃんは、うらのだんだら山にのぼって、山びこがっせんをした。
「わっほー」「わっほー」「わっほー」
 山から、ことばがかえってくると、かっぱちゃんが、いっぱいいるみたいだ。

 夏休みのまんなか。ぼくとかっぱちゃんは、とうもろこし畑の前で、ぴょんぴょん、せいたかくらべをして、大きな声でわらっていると、遠くで見ていたササオが、
「やーい、何もいないのに、わらってらー」
ぼくは、びっくりして、かっぱちゃんをじーっと見た。でもかっぱちゃんはちゃんといた。

 まい年お盆は、じーちゃんちで、親せきたちがわいわい集まる。かっぱちゃんは、まどからのぞいていたけど、みんなは、見えてないみたい。
 かっぱちゃんは、まどガラスのむこうから、
きょう・は・か・え・る・ね。口を大きくあけてつたえると、バイバイして、かえっていった。
 ぼくは、思いきってみんなに話した。
「あのね、さっきまで、かっぱちゃんといたんだ。ササオにはね、見えないみたいだった」
「おー、おまえも見える年になったか。いいやつだろ」
大っきい、いとこのあき兄ちゃんがいった。
「えっ?」
とーさんのおとうとの、ぎんぺいおじさんは、
「あいつら、何でかひと夏だけ見えるんだよな。いつでも来ていいのになぁ」
とーさんは、お酒をくいっとのみながら、うんうんうなずいてる。

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