小説

『リバーサイド』柏原克行(『賽の河原』)

「騒がしいと思ったらまたお前達か?この賽の河原では親を思いむせび泣くガキ共の声しか聞こえないもんだったが、まさか亡者の怒号が響き渡るとはな。」
そう言って私は彼等の積み上げた石の塔を崩していった。怨まれようが、これが私の仕事なのだ。
「あっコラ!お前いっつも何してくれとんねん。」
当然、血気盛んな若さ溢れる重治は私に食って掛かる。
「おや、いいのかな?私に手を上げるとお前の魂は永遠にここから解放される事はなくなるだろう。それでもいいのなら、好きにするがいい。」
「やめないか重治。ここで争っても何の解決にもならない。」
「そうじゃ重千代が死ぬまでの辛抱じゃ。」
「そんな事言ったって…あと何年待てばいいんだよ!」
「さぁ分かったらさっさと石を積んで塔を作らないか。一番若いお前は親の親のそのまた親への不幸の罪で石の塔を三つ作らなければ赦しはせんからな。オッサン、お前は自分の親とその親の分の二つ。爺さんの方はテトリス全面クリアーか特別にジェンガを崩さずに積むだけで赦してやろう。そしたら解放してくれる。」
「ジェンガって…なんで爺ちゃんだけゲームばっかやねん…。」
不貞腐れながらも重治は石を再び積み上げていく。
「あっ、その積み方、汚いからやり直し。」
私は重治の塔を金棒の先っぽで間髪入れず崩してやった。お役目とはいえ辛い。
「お前コラ、絶対解放する気あらへんやろ?」
「なんだ?私に逆らうのか?文句があるのか?文句があるというのなら親より先に死ぬな!どうしてもここに来たくなかったのなら、現世の流行に乗って自分の手で親を殺してからあの世に来ても良かったんだぞ!最もその時点で地獄行き決定だけどな!ワッハッハッハー。」
この様に罪人をいびり絶望を与えるのも自分の侵した罪の重さを知らしめる為でもあるのだ。
私が去ると彼らはまた石を積む作業に戻った。無駄だと解っていてもこれ以外他に出来る事もないのだ。
「何やねんアイツ!むかつくわー。」
「仕方ない。我々、伊豆見家の血筋を恨もう。長生きの家系だったんだよ。」
「そうじゃな。案外お前達もあんなしょうもない死に方さえしなければ、ワシや重千代より長生き出来てこんな所に来ずに済んだかもな。」
「…。」「…。」
「冗談じゃ…冗談。二人してそんな目でワシを睨むな。ワシかて自分の父親が120過ぎてもまだのうのうと生きるなんざ思わなんだ…。あれだけ生きといて親不孝もなかろうに…。」
「そう言えば一度、そうだあれは重治の高校進学のお祝いも兼ねて正月に集まった時、重千代爺さん危うく雑煮の餅を喉に詰まらせて死に掛けましたよね?」
「そんな事もあったかのう…」
「あの時いっそ死んでくれてれば…なんてね・・・フフフフフ…。」
「何言ってんだよ親父。ハハッ…ハハハッ…。」
「そうじゃぞ重雄。いくらなんでも、ブハハハ…。」
「…。」「…。」「…。」
「あの時、救急車呼んだの親父だろ…」
一瞬の沈黙の後、重治はボソッと呟いた…。
「お前、父である私に罪を擦り付ける気か?それだったら毎年恒例の餅突き大会で作った雑煮用の餅をもっと大きく丸めてれば良かったんだ!確実に喉に詰まるように!」
「お前それはつまり、もっと喉に引っかかって窒息しやすくなる大きさに丸めれば良かったと言いたいのか?毎年餅を丸めてたのはワシと婆さんじゃぞ。重雄お前という奴は産んでもらった親に向かって…。いや思い出したぞ。あの時、重治は第一志望に落ちて滑り止めの高校に行くことになったんじゃった。お前さえ志望校に受かっていれば雑煮の餅も、もっと多く奮発できたんじゃ!元はと言えばお前が悪い!」
「そんな難癖の付け方あるか!無理矢理にも程があるわ!」
「…。」
「…もう…よしましょう。」
「そうじゃな…。」
三人は暫くの間、三途の川に向い並んで座り石を拾っては川面に投げ入れ続けた。
その時だ…向こう岸に人影が現れたのは!

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