小説

『HANA』結城紫雄(『鼻』 芥川龍之介)

 ある夜の事である。その日は急に寒くなり、秋用の布団で私は丸くなり羽毛布団を出そうかどうか思案していた。すると、胸がいつになく熱い。なんだかむくんでいる気もする。
(やっぱりあの薬、危ない薬だったかな、飲まなきゃよかったかな……)
 やっぱり止めときゃよかったかも、と思いつつ、腫れぼったい胸をさすりながら眠りについた。
 翌朝、目をさますとやけに空がまぶしい。眠たい目をこすりながらカーテンを引くと、一面の銀世界が見えた。雪だ。そういえば室内の空気が澄みきっている。昨日は体がダルくてあんまり寝てないけど、少しテンションが上がってきた。きれいな空気を胸いっぱいに深呼吸。ほとんど、今まで体感したことのない感覚が私に訪れたのはこの時である。
 私は慌てて胸に手をやった。手に触れたのは、昨日までのふくよかな胸ではない。いや、ふくよかどころではない、「ギネス・ワールドレコーズ」や、お正月のびっくり人間ショーで見るような巨乳、いや爆乳が胸にぶらさがっていた、というか、これが胸本体なのである。片方がゆうにメロン大である。
 そうしてそれと同時に、初めて胸が大きくなった時と同じような、はればれした心もちが、どこからともなく帰って来るのを感じた。
(ここまでくれば、みんなどうやって笑えばいいかわらないよね)
 私は心の中でこう自分に呟いた。Qカップの胸を冬の窓辺でたゆんたゆんとゆらしながら。

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