小説

『赤いスカーフの女』清水健斗(『赤ずきん』)

 その時だった、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来た。サイレンの方を向く涼子。パトカーのライトが和也と涼子を照らす。パトカーから若い刑事が降りて来る。
「……」
 無言で手を上げる涼子。刑事が涼子に近づき、手に握られていたナイフとキーホルダーを見つめる。
 助かった。和也は身体を仰向けにし、天を見上げた。自分も捕まるが、死ぬよりましだ。
「小橋和也だな」
 和也の顔を覗き込む形で、警察官が訪ねた。
「はい」
「あのキーホルダーは被害者のか?」
「……ああ」
「……そうか」
 次の瞬間、和也の額に拳銃が突きつけられた。
 何が起ったか理解できず言葉を失う和也。拳銃を握る手の薬指には、パトカーのライトに照らされて光る婚約指輪が見えた。
「……里美の仇だ」
 和也の頭に、もう一度赤ずきんの最後が過った。
『そうだ、オオカミの最後は赤ずきんじゃない。猟師に……』

 静まり返った森に銃声が鳴り響いた。

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